言語的相対論(サピア・ウォーフの仮説)は、言語が人間の思考に影響するという考え方です。
日本語話者と、英語話者では、違った考え方を持つということです。
ちなみに、サピア・ウォーフ仮説は、エドワード・サピアとベンジャミン・リー・ウォーフというアメリカの2人の言語学者が考えたものです。
強い仮説と弱い仮説
言語的相対論(サピア・ウォーフの仮説)には、強い仮説と弱い仮説があります。
強い仮説
言語が人間の思考を全面的に決定するという仮説です。
ただし、この強い仮説は、現代の言語学者の間では一般的に誤っているとされています。
弱い仮説
言語が人間の思考に何らかの影響を与えるという仮説です。
この仮説には、肯定する実証的な証拠が出ています。
- 強い仮説=言語が人間の思考を全面的に決定する
- 弱い仮説=言語が人間の思考に何らかの影響を与える
サピア・ウォーフの仮説の例
サピア・ウォーフの仮説の例は以下です。
エスキモー(イヌイット)語の「雪」
北米の英語には雪を表現する単語が数種類しかないのに対し、エスキモー(イヌイット)語には「雪」を表す言葉が30以上あります。
ホピ語の水を表す言葉
ホピ語には、容器に入った飲み水を表すものと、自然の水域を表す言葉があります。
これらの言語の多義性の例は、先住民の言語がヨーロッパの言語よりも細かい意味の区別をしている場合があり、また雪や水といった一見基本的な概念であっても、二つの言語間で直接翻訳できるとは限らないことを示しています。
ガソリンの容器
ウォーフが保険会社の火災検査員として働いていたときのエピソードです。
彼がある化学工場を検査していたとき、その工場にはガソリンの容器を保管する部屋が2つありました。1つは、ガソリンが満タンの容器を保管する部屋、もう1つは空の容器を保管する部屋です。
彼は、従業員が満タンの容器を保管する部屋ではタバコを吸わないが、空の容器の部屋ではタバコを吸っていることに気がつきました。
ただし、実際は、空の容器には可燃性の高い蒸気が残っているため、満タンの容器よりも危険性が高い可能性があります。
彼は、「空」という言葉を使ったことで、従業員は無意識的に容器が無害だと認識したからではないかと考えました(意識的には爆発の危険性を認識していたにもかかわらず)。
ただし、この例は空という言葉の使用と喫煙という行動との間の因果関係を実際には証明していないと、後に批判されています。
ピンカーは著書『言語を生みだす本能』でこの例を嘲笑し、これは言語というより人間の洞察力の失敗だと主張しています。
まとめ
- 言語的相対論(サピア・ウォーフの仮説)は、言語が人間の思考に影響するという考え方
- 強い仮説=言語が人間の思考を全面的に決定する、弱い仮説=言語が人間の思考に何らかの影響を与える
サピア・ウォーフの仮説は名前や簡単な内容は知っているものの、詳しくはわからないという人も多いのではないでしょうか。私も今回勉強して初めて知ったことが多かったです。
たとえば、サピア・ウォーフというのは、サピアさんとウォーフさんの2人の名前から来ていることなど、知りませんでした。
また、現在では批判も多く、日本でも有名なスティーブン・ピンカーなどがその代表でしょうか。
「弱い仮説」が支持されることが多いようです。
参考記事:Linguistic relativity / 言語的相対論